蛾。

[ 小さな星日記 ]

2週間振りの土曜日....って、このあいだはGW、5日のこどもの日だったんだよなとか思いつつ、12:00ですよ、開店ですと下の黒板を書き替えに下りたら、黒板の左上のところ...ちょうどその黒板のいびつな形にぴったり羽の下を合わせるようなかんじで、小さな蛾が留まっていました。個人的にはあんまり蛾は好きじゃないんですけど、シンプルで綺麗なアラビア模様みたいな羽を二枚並べたその小さな蛾を....振り払うほどでもないんじゃないのとそのままにして、お昼のメニューを黒板に書き始めました。

黒板を書いている間にも、何組かのお客さんがご来店。僕はちょっと急いで黒板を書き上げてお店に戻ります。チョークの粉に逃げてしまうか思ったけれど、蛾はそんなことモロともせず、じっとそこに留まっていました。

2週間振りのランチのせいか、久しぶりにたくさんのお客さんにご来店いただき、賑やかで忙しいお昼時。コーヒーを淹れたり、ドリンクをセットしたり、下げものを片付けたり、洗い物を食洗機にかけたり.....おなじみのお客さんとご挨拶をしたり、先週休みって知らないで来ちゃいましたよーと、それで今週リベンジで来ました!ってうれしいお言葉をいただいたり、はじめて来たんスけど、いいっすね、またちょくちょく来ますって、帰りがけにスコーンをお持ち帰りいただいた若いカップルに声をかけてもらったり.....慌ただしいながらも、そんな風にパタパタと頭と身体を働かせて立ち回るのは気持ちのいいものです。

そしてティタイムの時間になって、フタタビ下の黒板を書き替えに行きます。
思ったよりも天気は回復してて、切れ切れの雲のあいまからきれいな青空、風はひんやりさわやかとしておりまして、ちょっと息抜きしつつ.....と、黒板の端、まだそこにあの蛾がちゃんと留まっていました。

あれから3時間.....ずっとこうしてたんだろうなと、いったい蛾はなにを考えてたんだろう、なんて少し考えるけど、蛾じゃないし、そんなことわかるわけないから、とりあえず自分の仕事.....黒板を書き替えるわけです。その間も、蛾は何食わぬ顔でそこに留まっているのです。

ティタイムも、ランチの片付けものをしながら....何組かのお客さんが次々といらっしゃってフカザワとふたりちょっとテンテコマイ。ひと段落して、お客さんにお冷やを注ぎにまわっていると....リクルートスーツをお召しの、顔なじみの女性のお客さんに急に.....接客の仕事は、どうですか?と尋ねられ....あ、いや、どうって(苦笑)?.....今....接客の仕事に就職が決まりそうなかんじで....って、そうでしたか、えーと、そうですね、あの、僕に聞いてもっ....て思わなくもないけど(笑)、えぇ、僕はこの仕事ある意味天職だと思ってますよ....昔夢に見てたような....一番好きな仕事ってわけではないけれど、とても向いているし、そして今ではすごく好きな仕事ですよと。でも、それが彼女にとって役に立つ話のようには、正直全然思えないけれど....でも彼女がにっこりしてくれて、とてもうれしかった。

ティタイムも後半、またちょこちょことお客さんがご来店.....なんだか一日中お客さんのいらっしゃる、えぇ、普通のお店みたいねとちょっと思う(笑)。お茶利用ののお客さんもいらっしゃれば、早めの夕ごはん、ちょっといっぱいってお客さんもいらっしゃって、僕も夜の日替わりメニューを作ったり、ホームページ更新の準備をしたりしつつ.....っと、そろそろディナータイムですよと、ミタビ黒板を書きに下におります。

夕方はちょっと曇りがち....不穏な雲も出てたりしたので、これからもしかしたらひと雨来るかなとおそるおそる空を見上げると....えぇ、フタタビ青空も出たりしてて、今夜は雨の心配はなさそうですねと、暮れてきてさらにひんやり...少し肌寒いくらいの、でも気持ちのいい風が吹いていて.....そういえば、あの蛾はいるのかなと......やっぱりそこにちゃんと蛾は留まっていました。昼からまったく身じろぎひとつしないみたいに、まるでずっと前からそこにあるべきもののような素振りで。

蛾は、なんだか僕を酷く責めているような、しかたがないなと励ましているような.....いやたぶん単にそこで僕を見ているだけなんだろうと.....そう思う。ふと、佐野元春の「そこにいてくれてありがとう - R・D・レインに捧ぐ」の冒頭の一節がぐるぐると頭の中にリフレインしはじめる。

さよなら こんにちは
そこにいてくれてありがとう
風の行く手に従っていけばいい

あぁ、疲れてるなーと思う(苦笑)。
先週末に4連休いただいたばかりなのに、逆にキモチ的にはコテンパンに疲弊して迎えた今週。でもやっぱりお店でお客さんと会えることの方がおもしろいなとつくづく思った今週.....でもそうやってもこのまま3周年の6月あたままでキツイままでいるのは、それはもう仕方がないけれど、それがひと段落したら.....小さな自転車でぶらっと川沿いの道を走りに行こうと思った。そうできるか、ちょっとわからないけれど、それでもぜひそうしようと思った。

蛾はまだそこにいて、僕は黒板を書き替えてお店に戻る。
すでにお客さんが何組もいらっしゃって、ちょっと賑やかな土曜日の夜。僕はいつものカウンタの端の席で....ひっそり静かにこの話を書く。

さよなら こんにちは
そこにいてくれてありがとう

蛾は....今夜閉店の頃、まだあの場所に留まっているだろうか?
なんだか.....いないような、そんな気がします。

さて、仕事、仕事。

 
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