第8話

企画を売り込む。

僕のようなフリーライターが本を出そうとする時、ある意味一番大変なのが、出版社への企画の売り込みです。小説家の方とかの場合は完成した原稿を持ち込むこともあると思いますが、リトスタ本のような企画の場合、執筆前の企画段階から持ち込むことが多いです。

出版社側から見れば、どこの馬の骨ともわからない僕のようなライターの企画なんて、引き受けなければならない理由は何もありません。企画書を突き返されて当たり前、何の文句も言えないという状況に自ら飛び込んでいくのは、正直、かなりの覚悟が必要ですし、ストレスもたまります。

僕が今年の春に上梓した「ラダックの風息」という本の場合、最初に知人の紹介である大手出版社の編集者さんに本の企画をプレゼンしに行ったのですが、その時はもう、散々でした。苦労して作った企画書も、ぱらぱらっとめくられただけで読まれもせず、ノートパソコンで写真をスライドショー再生しても、ろくに見てもらえない。

「いやー、今時こういう本を出すなら、エコとかに絡めなければダメだよー」
「写真をカラーに? 無理無理、うち、人件費だけで相当かかっちゃうから」
「いっそ、あなたがラダックで家でも建てたら面白いんじゃない?」

‥‥と、本当に好き放題に言われました(苦笑)。結局「ラダックの風息」は別の出版社からほぼ理想的な形で出すことができたので、まあよかったわけですが。

売り込みに行った出版社で編集者さんに企画を気に入ってもらえたとしても、それだけでは本は出せません。社内の企画会議、稟議、稟議、また稟議‥‥といくつものハードルをクリアしなければならないのです。そのためには、とにかく周到に企画を練り上げて、どんな相手でも説き伏せられるくらいの理論武装をしておく。そしてプレゼンの際には、暑苦しいくらいの熱意を込めて説明する(笑)。それくらいの努力をしなければ、本の企画を通すことはできません。

‥‥で、リトスタ本の売り込みはどうだったかというと。

この本の企画を練っていた時、僕は「女性の編集者さんと組めたら理想的だな」と考えていました。執筆を担当する僕が男ですから、編集段階で女性の目線が入れば、うまくバランスが取れるのではないか、と。ただ、前のエントリーでも書いたように、リトスタ本はよくあるカフェ本のようにはしたくなかったので、そういうカフェ本をたくさん出している出版社は、売り込むとしても後回しにしたいと思っていました。

そこで最初に連絡を取ったのが、美術出版社の宮後優子さん。宮後さんは「デザインの現場」というクリエイター向けの雑誌の編集を長年担当されていて、僕も何度か一緒にお仕事をさせてもらったことがありました。美術出版社さんは、仕事の進め方がとてもきちんとしていて、紙や印刷など本作りのノウハウに長けていて、優秀なデザイナーさんとのコネクションも豊富。リトスタ本を出すなら面白い組み合わせなんじゃないかと思ったのです。

最初に「こんな企画があるんですけど‥‥」というアバウトな打診のメールを送ったところ、宮後さんは「せっかくなので、実際にお店に伺ってから企画の話を伺いたいです」と、わざわざリトスタまで出向いてくれました。で、二人してその日のランチを食べた後、食後のコーヒーを飲みつつ、用意していた企画書を見ていただきながら、企画の説明をしました。リトスタ本の企画をリトスタで紹介できたので、ある意味理想的なプレゼンでした。

「面白そうですね。じゃ、私が次の社内企画会議で提案してみます」
「その会議って、いつですか?」
「来週の水曜日ですよ」

で、一週間後。宮後さんから「リトルスターレストランの企画が通りました」というメールが届いたのです。あまりにも早く決まってしまったので、びっくり。

もちろんこの結果は、社内企画会議で宮後さんががんばってプレゼンをしてくれたおかげです。でも、一冊の本を出すことすら困難なこの状況の中で、リトスタ本の企画がこんなにもスムーズに決まってしまったということに、僕は何か目に見えない巡り合わせのようなものを感じずにはいられませんでした。

‥‥正直、かなりホッとしました(笑)。

(yama_taka)

 
この記事につぶやく。 感想など送る。 イイネッ!